時が経つのは早い。
早すぎる。
だいたい1日があっという間で、だから1週間だって一瞬で過ぎてしまうもののように、近頃ますます感じるのだ。
と、いうわけで、映画「海街ダイアリー」を観てきてからかなりの時が経ってしまった。
余韻は半分以上抜けたかもしれない。
でもまだ半分近くは残っているなとも思う。
この忙しい日常にあって、それは中々すごいことかもしれない。
この映画の原作である吉田秋生先生の作品が好きなのだ。そして、鎌倉が好き。だからこの映画に興味がないわけはもちろんなかったが、是非観たいという強い気持ちにもなれなかった。一番の理由はやはり、原作から持つイメージを壊されていると感じてしまうのではないか、という懸念からだ。
配役も微妙な気もした。
5巻まででているお話である。
昨今、ものすごく長いお話が多い中では5巻くらいだとまあまあ程よい短さ、一見、2時間くらいの映画一本分にちょうどいいんじゃないの、と思える。
ところがこのお話はものすごくエピソードがあり、その中身が濃くて重みがある。
キャラ1人1人がものすごくしっかりとした厚みをもっていて、モブっぽく見える人も多いのに、それがそう簡単にモブだけではおわらない感じまであるのだ。
まして主役級の人たちは結構設定てんこ盛りである。
例えば物語の始まりは勿論、この姉妹たちの状況、事情、ことの始まりだ。
鎌倉の古い家に住む三姉妹のもとに、父親の死亡の知らせが届くが、この父親は15年も前に妻とまだ幼かった三姉妹を捨てて、不倫相手と消えてしまったという人だ。
姉妹は祖母に育てられたらしいがその祖母ももう数年前になくなり、ナースとして働くしっかり者の長女、地元の信用金庫に勤める活発な美人の次女、同じく地元のスポーツ用品店に勤める大らかでファニーな役所の三女、とにかくもうみんな大人で、程好く安定した日常を送っている中である。
そこへ今更父の訃報が届いても、へえ…そうなんだ…というくらいの気持ちというところから物語は描かれ始める。父が不倫相手と結婚し、その女性との間に娘がいるらしいと知っても別段騒ぐこともない。ああ、そう・・・という、ごく普通の受け止め方だ。
でもまあ一応告別式に参列しようかと、父が過ごしていたという山形県梶鹿沢温泉へと出向いて行く。そこで亡き父が再婚相手の女性(つまりは三姉妹の家庭を壊した不倫相手の女性)との間に生まれた娘、三姉妹にとって腹違いの妹になる中学1年生のすずと出会う。すずの母は亡くなっていた。そして父はまた、地元の女性と結婚しており、その状態の中で亡くなったのだった。
告別式のどたばたとしたやり取りの中で、まだ中学生のすずが、周囲の人たちの優しさに包まれつつも、頼りなく大人気ない質の義母に馴染みきれず、孤独を抱え、健気に一人しっかりと父を亡くした孤独と痛みに耐えている姿を見る。
帰り際、鎌倉に来て一緒に住まない?と誘ったのは、しっかり者で常識家らしい、およそ冒険などあまりしないであろうはずの長女の幸だった。驚きながらも笑顔で同意する次女佳乃とチカ。そして何より驚いたであろうすずが、鎌倉に行く事を即決する。
そしてすずは鎌倉にやってきた。
と、ここまでだけでもドラマにすると結構な尺を取ることだろう。
実際、かなり大きな物語だ。
だけど原作ではさらに多くのエピソードが盛られてくる。
・すずの所属するサッカーチームの花形プレーヤーが病気で足を切断する話。
・チカが勤め先の店長と同じアフロな髪型になっちゃう、それくらい店長に恋してるらしい話。
・冒頭に写って、ただ佳乃にお金を貢がせていただけの青年のように映画では描かれて出番もすぐなくなったけれど、原作では、その青年にもまずすごい物語がある。
・吉野がネットで地元の酒店の掲示板で、酒好き仲間と盛り上がり、特に気があっている相手が実は現在勤める信金の上司で、なんとなくその人との間に良い恋愛が生まれそう。
・その上司がすずのチームメイトでたくましいゴールキーパーのみぽりんのお兄さんだし、酒店というのは風太の家で、お兄ちゃんが掲示板をやっている。サッカーチームのコーチは幸の病院の理学療法士で幸に片思いしている。地元の皆んなが親しんでいる海猫食堂ですずと風太のチームメイトの関西弁男子の母がパートしている。
・風太はすずが好きだし、すずもなんとなく淡く恋愛感情はある。でもチームのこっととか、進路のことについての悩みもある
などなど、ざっと本を確かめずに思い出すだけでもこれくらいはお話があるのだ。
そこから幸の不倫と、梅酒作りと、夏の花火大会と三姉妹の母親が鎌倉の家土地を売りたいといいだすことという話だけ抜粋して映画にし、淡々と静かに四姉妹の1年を描き出した映画。
会話も舞台もすごく普通で、それもよかった。
何より女優さんたち素晴らしかった。
最初にテレビで紹介されているのを見たときには単なる人気の女優さんの集まりにしか見えなかったのに、映画で見ているともう本当に姉妹に見えて、みんなの絆を感じられ、そのことに感動した。
素では天然でぼんやり迂闊だとして有名な女優の綾瀬はるかさんが、ものすごくしっかりしていて気働きの聞く頼りがいある女性に見えることにも感動して。
すず役の広瀬すずちゃんがあまりにも美少女すぎることと、サッカーのシーンが少ないことがちょっと残念というあたりも含めて、この映画はよかったかなと思う。
何度か涙ぐんでしまった。


なので珍しく、グッズなど買ってしまう。
1600円超という値段に、高っと夫婦で目を見合わせてしまったものの。
鎌倉の海と紫陽花を染め抜いた手拭い
てぬぐいは、普段から素敵なものを見かけても800円前後の値段が嫌で買わないのに、
倍以上のものを買ってしまったよ?と自分でも一瞬、自己嫌悪感に苛まれたのだけれど、
家に帰って広げたら、「あ、素敵だね」と夫婦で納得できて、
買ってよかった、と思えたのが嬉しかった。
少し前に出向いた鎌倉の長谷寺で買った鈴とシンクロしている。
ちなみに知らずに封切り初日に行ったのだけれど、新宿ピカデリーはおびただしいほどの男性客で埋め尽くされていた。
ラブライブ。
私もスマホでゲームをダウンロードしたことあるけれど、放置している。それが人気とは知っていたけど、まさかこれほどとは・・・と、呆気にとられるほどの、大変な数のファンの方達の熱気に、ある種の感動すら覚えた。
好きなものがあるって素晴らしいと、皆さんの期待に溢れた表情を観ながら素直に思った。
海街ダイアリーは、私の周りがたまたまなのかもしれないけれど、高齢層の方が多く、前列には白髪のご婦人グループが座っていて、うちお一人が途中でお手洗いに行きたいと席を立たれ、おぼつかない足取りで暗闇の中をそーーっと歩いて行かれたのだが、それがトイレのある方向とは全く違い、スタッフのみしか使えない扉の方角で。
そこより他に行き場を見つけられず、さりとてそのドアも開かぬまま、立ち尽くすご婦人を救いに行きたくとも、私の席は簡単には抜けられないど真ん中。
ハラハラしていたら見かねた別の中年男性がそーっと近寄り、道案内をしてくださったのですごくホッとした。
ご婦人のご友人一同はノーリアクションで、どうも一連の動きに気づいておられなかったらしい。
映画が終わって見渡すと、本当にほとんど若い人はいなかった。
そうか、この映画には若い女性を引き寄せるようなイケメン俳優さんがあまりでていらっしゃらなかったのだ・・・女優さんたちは豪華だとは思ったけど・・・ラブライブの方が上だったかな。
そう感じた私の印象はそのまま現在の映画の興行成績に現れていると思う。
いや、その割には「海街ダイアリー」2位って健闘している方かもしれない。